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大阪地方裁判所 昭和28年(ワ)2611号 判決

原告 吉田正一

被告 国

訴訟代理人 岩村弘雄 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し金三十万九千百八十円及びこれに対する昭和二十九年七月二十日から右支払ずみまで年五分の金員の支払をせよ、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「一、訴外茨木税務署長は、昭和二十六年十一月十九日原告の父亡吉田三治郎に対する財産税課税価格を金百七十三万千八百円(これに対する課税額は本税金百六万四千八百五十円加算税金五十万六千八百八十円、計金百五十七万千七百三十円)と更正決定し、右通知書を同月二十一日三治郎の相続人たる原告に郵送した。原告は、右決定を不服として同年十二月十三日付茨木税務署長大阪国税局長連名宛の異議申立書を提出したが、これに対するなんらの決定もなく、翌二十七年四月四日大阪国税局は原告所有の宅地三筆建物三戸の不動産に対し、次いで同年五月二日茨木税務署は同じく自動車外一点の動産に対し、右財産税の滞納を理由として国税滞納処分による差押をした。原告は、やむなく弁護士中井彌六に依頼して、同年六月大阪地方裁判所に対し被告を相手方として前記更正決定の無効確認を求める訴(同庁昭和二十七年(行)第三七号財産税更正決定無効確認事件)を提起した。右訴訟の口頭弁論期日は、被告側の申出により再度延期されている間、同年八月十六日茨木税務署長から右更正決定の取消通知書の送付を受けたので、原告はそれにより出訴の目的が達成されたものとして、前記訴の取下をした。

二、財産税法(昭和二一年法律第五二号)は昭和二十一年勅令第五四八号により同年十一月二十日施行されたのであるが、同法第四十六条第五項において「課税価格の更正又は決定は、この法律施行後五年間に限り、これを行うことができる。」と規定し課税権行使の期間を同法施行後五年間に限定しているから、昭和二十六年十一月二十日以降になされた更正決定は違法且つ無効というべきである。しかして、更正決定は納税義務者に通知することを要し(同法第四十八条第一項)、右通知により効力を生ずべき処分であるから、前記五年の期間の経過後に更正決定の通知が相手方に到達した場合には、右決定が法定期間内になされたものといえないことは、前記法条の解釈上当然である。これを本件についてみるのに、更正決定は法定期間の最終日である昭和二十六年十一月十九日付でなされているが、通知書の送達により右決定が原告に告知されたのは、同月二十一日であるから、右更正決定は、法定の除斥期間経過後になされた課税処分として違法無効なものといわなければならない。

三、かように右決定が違法であることは法律解釈上明白であるばかりでなく、とくに原告からその点を指摘して茨木税務署長及び大阪国税局長に不服の申立をしたにかかわらず、両者ともこれに対し何ら応答するところなく、かえつて右決定を維持して差押処分を強行し、ついに原告をして行政訴訟による救済を求めるの余儀なきに至らしめ、しかも右訴訟が提起されるや早急に原告の主張を容れて右決定を撤回するに至つたのである。右更正決定の維持及びこれに基く差押処分の施行は、国の公務員である茨木税務署長及び大阪国税局長が課税権を行使するに当つて、職務上要求される法律的知識の欠如により明白な法律解釈上の誤りをおかしたか、もしくはことさら原告の異議を不問に付し法律解釈について研究を怠つた故意又は過失に基く違法な処分というべきであるから、右処分によつて原告が蒙つた損害について被告にその賠償責任があることは、明らかである。

四、原告は、右処分に起因して、次のような損害を蒙つた。

(一)  違法な差押処分により、著しい精神上の苦痛を受けた。右苦痛は金十万円の支払をもつて慰藉せらるべきである。

(二)  違法処分を排除するため行政訴訟を提起したについて、次のような費用を支出し、財産上の損害を受けた。

(イ)  訴状に貼付した訴訟費用印紙額 金九千百八十円

(ロ)  弁護士中井彌六に対し日本弁護士連合会報酬規定に従い支払つた報酬額 金二十万円

内訳 金五万円 昭和二十七年三月二十日着手金として支払

金五万円 同年十一月十日謝金内金として支払

金十万円 昭和二十八年六月二日謝金残金として支払

五、よつて、原告は、被告に対し右損害合計金三十万九千百八十円及びこれに対する昭和二十九年七月二十日(請求拡張の準備書面送達の翌日)から右支払ずみまで民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。」

と述べた。〈立証省略〉

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

「原告が主張する一の事実は認める。二の法律解釈に関する主張も争わない。四の事実は不知、その他はこれを争う。

(一)  本件事実の経過は、次の通りである。

原告亡父訴外吉田三治郎は課税価格零として財産税の申告をしたが、同人の死亡により相続人たる原告が昭和二十五年十二月十六日に提出した相続税の申告によると相続財産が多額にのぼつているところから、さきに亡父のした財産税申告につき申告の更正又は修正申告の必要があると認め、課税価格の調査をした上、昭和二十六年十一月十四日茨木税務署長は、原告に出署を求め、修正申告を要する旨を告げて調査額を内示したところ原告は、評価基準が高過ぎること、債務計算が過少であることにつき不服を申し立て、この二点が認められれば修正申告をする旨申述した。同署長は同月十六日右不服申立につき大阪国税局に報告したところ、同局は、評価基準は一率に法定されているから変更はできないが、債務の存在については調査の上不服申立の一部を認めてよいと指示した。そこで、同署長は、同月十八日この指示に従い修正申告の提出を促すべく原告方に電話したところ、原告不在のため、同日午前中に出署するよう原告の母に伝言を依頼したが、同日原告は出署しなかつた。そこで翌十九日再び原告方に電話連絡したところ、また原告が不在だつたので、原告の母に同日午前中に原告が出署するよう、もし出署しなければ同日更正の時期がきれるから調査の結果に従い更正する旨を告げた。しかるに原告は出署しなかつたので、同署長は同日午後本件更正を行つた。翌二十日午前中に原告が出署したので右更正の通知書を手交しようとしたがその受領を拒否したので、同日これを郵便に付して発送し、翌二十一日右通知書は原告に到達したのである。その後原告主張のような経過を経て右更正処分無効確認の訴が提起され、同署長において再検討の結果右処分の適法性について疑義を生じ、同年七月十一日その取消の可否について大阪国税局長に上申したところ、同年八月十一日取り消すべき旨の指令があつたので、同署長は、同月十六日本件更正処分を取り消したのである。

(二)  被告には、次のような法律上の理由から、賠償責任がない。

(1)  茨木税務署長には、本件更正処分をしたことにつき故意過失がない。行政庁が行政法規の解釈を誤り違法な行政処分をした場合に国に賠償責任を生ずるのは、行政庁が故意に法律を曲解し、又は誤解と知りながらこれを維持するか、若しくは職務上要求される通常の法律知識を欠き明白な法律解釈の誤りをおかす等違法処分をするについて故意又は過失があつた場合に限られる。行政法規の解釈は必ずしも容易でなく、反対論を生ずる余地のない程度に明確な場合は少いから、単に法律解釈を誤つたからといつて、直ちに行政庁の故意過失を推認することは酷に失する。財産税法第四十六条第五項の趣旨については、同法第四十八条第一項の規定や課税処分の性質にかんがみ結局原告が本訴において主張するような解釈が正当と考える。しかしながら、更正の通知が五年内に到達していなければならないとすると、遠隔の地にある納税義務者が通知の遅れることにより不当に利得するような事例を生じ、課税公平の原則に反することになるし、前記の規定の表現から更正の通知が五年内に相手方に到達すべきことまで要求していないとも読めないわけではないから、財産税法施行後五年内に更正の意思決定が内部的に成立している場合には、通知は期間経過後でも遅滞なくこれをなせば足るとの解釈も、一概に誤解として排斥さるべきではない。従つて、茨木税務署長が後者の解釈に従いそれを正当と信じて本件更正処分及び滞納処分をしたのも、あながち無理からぬことであつて、署長に故意又は過失があつたということはできない、まして、叙上の通り署長は、申告納税制度の建前から原告の修正申告を促すべく鋭意努力したにもかかわらず、原告が誠意ある協力をしなかつたため、違法処分を余儀なくする結果を招来したこと、原告の出訴により直ちに非違を改めて本件更正処分を取り消したことを考えると、徒らに被告の責任のみを追求する原告の態度こそ非難に値する。

(2)  更正処分と弁護士報酬の支出との間には、相当因果関係がない。違法な行政処分を排除するため訴訟を提起し訴訟代理人たる弁護士に支払つた報酬は、違法な処分により直接生じた損害ではなく、違法な行政処分により通常生ずべき損害若しくは処分当時予見し得べき特別事情によつて生じた損害でもない。右の報酬は、訴訟をしたことにより生じた損害ではあるが、この損害と行政処分との間には相当因果関係を欠くものというべきである。もつとも、行政訴訟の被告となつた国又は行政庁が争うべき根拠がないことを知りながら単に被処分者を害するために争つたというように応訴して争つたこと自体に違法性がある場合には、応訴という不法行為により直接生じた損害として、被処分者が支払つた弁護士報酬につき損害賠償責任を認むべきであらう。応訴それ自体に不法行為成立の要件を欠いているならば、たとえ訴提起の縁由が違法な行政処分に発したところで、国は賠償責任を負うべき筋合ではない。およそいかなる不法行為に基くにせよ、苟しくも訴訟を提起して弁護士に報酬を支払つた場合には、常にその報酬につき損害賠償を請求できるとの立場を認めるならば濫訴の風を助長し、相手方にとつても酷にすぎ、損害賠償責任の根本理念たる衡平の理想に著しく反する結果となろう。この点に関する大審院判例は、従来動揺していたが、昭和十八年十一月二日民刑連合部判決(民集二二巻一一七九頁)により、被告が前に述べたような見解を確定するに至つたのである。

加之、原告が措つた前記行政訴訟提起の手段は、違法処分を排除するため十分な必要性を具備したものではない。すなわち、原告が差押処分を受けるに先だち昭和二十七年三月二十日中井弁護士に着手金五万円を交付して事件を依頼したことはその自認するところであるから、訴提起は差押処分の有無にかかわらずなされたと思われるが、すでに原告は昭和二十六年十二月十三日付異議申立書と題する書面を同月十四日茨木税務署に提出しており、右は更正決定に対する再調査の請求(国税徴収法第三十一条ノ二)の効力を有するものであるから、これに対する当該税務署長の決定を待てばよいわけであるが、再調査請求の日から六ケ月(同法第三十一条ノ四第一項参照)を経過してない昭和二十七年五月六日に前記訴訟を提起したのである。仮に差押処分を受けたため右決定をまたないで訴提起に及んだものであるにせよ、差押処分を排除するためにはまず当該税務署長に対し差押処分の再調査請求をなすべきであり(換価による実害を防ぐためには、差押に次ぐ公売予告通知ないし公売公告がなされた後公売開始までの法定猶予期間内に公売処分に対し再調査の請求をすれば、即日裁決されるから、それでも事足りる。)かような手段を尽さないで右六ケ月の期間前に提起された前記の訴訟は、国税徴収法第三十一条ノ四第一項に違反する不適法な訴として、仮に原告が取下をせずに維持したとしても、却下を免れなかつたであろう。以上の次第で、原告が右の訴を提起したことは、権利擁護のため止む得ずなされたものではなく少くとも時期尚早といえるから、この意味においても、弁護士に支払つた報酬と本件更正決定との間の相当因果関係は否定さるべきものである。

(3)  仮に以上の主張が容れられないとしても、原告主張の報酬金額は、通常弁護士に支払わるべき相当報酬額の範囲を超えているから、全額につき賠償する義務はない。」

と述べた。〈立証省略〉

理由

原告主張の茨木税務署長が原告に対し財産税課税価格の更正決定をしてからこれを取り消すに至るまでの経過事実(請求原因一の事実)は、すべて当事者間に争がない。右更正決定が原告のいうような理由で財産税法第四十六条第五項の規定に違背する違法な処分である点も、被告の争わないところである。財産税法第四十六条第五項の規定は、財産税のような臨時特別税にあつては可及的速やかに徴税事務を完結し税法上の権利関係を確定するのが望ましいとの立場から、課税権の行使につき五年の除斥期間を定めたものであつて、課税価格の更正が右期間内に行われたというには、単に更正に関する課税庁の内部意思が右期間内に確定したにとどまらず、その旨の通知もまた右期間内に相手方に到達して当該処分の効力が発生している場合であることを要するという解釈が上記規定の趣旨及び行政行為の性質に照して正当であり、従つて、当裁判所も、本件更正決定は、その通知が右期間の経過後になされた点において上記の規定に違背し、課税権消滅後になされた無効な処分と解すべく、右更正を前提としてなされた差押処分も違法たることを免れないものと解する。しかして、かような租税の賦課徴収に関する処分が国の権力作用に属する課税権の行使としてなされるものであることは、いうまでもない。

ところで、国家賠償法第一条の規定によれば、かような違法処分により他人に損害を加えたときでも、それに当つた公務員に故意又は過失がある場合に限つて、国に賠償責任を課する立前をとつているから、本件更正又は差押処分をしたことにつき茨木税務署長その他国の税務職員に故意過失が認められなければ、国家賠償を求める本訴は、他の争点に関する判断をまたないで、理由を欠くものといえるわけである。ここに故意とは、違法行為であることを知りながら行うことであり、過失とは、そのことを当然知り得べくして不注意により知らないことをいうものであることは明らであるが、単に違法な行政処分がなされたということ自体から、直ちに当該公務員に故意又は過失があつたものと推断すべきではない。けだし行政処分は法令に適合してなされることを要求され、当該処分に当る公務員は関係法規の解釈を誤らないことを要するのであるが、行政法規の解釈は必ずしも容易ではなくことがらの内容によつては区々の解釈を生じ、時として見解の相違というほかないような場合もあり得るのであつて、かかる場合当該公務員が職務上要求される通常の法律知識に従い解釈上正当と判断してなした処分が、たとえ事後における行政解釈の変更により、さらに制度上終局的には裁判所の判断により、結局違法と判定されたにしても、それをしも故意又は過失に基くものということはできないからである。

いま本件についてみるに、成立に争ない甲第一号証の一、二及び証人坂口泰敏の証言によると、茨木税務署は昭和二十六年四月頃原告から相続税の申告がなされたのを機として、原告の亡父吉田三治郎のした財産税申告の内容に疑念を抱き、課税財産の調査をした結果、課税価格の更正又は修正申告の必要があると認め、同年十一月初頃原告の出頭を求めて調査額を内示し修正申告を促したところ、原告は税務署の評価額が過大である旨不服を述べたので、同税務署長は大阪国税局に照会しその指示に従い原告の要求の一部を容れて減額によつて修正申告をさせるべく同月十八日原告方に電話連絡させたが、不在のため、遅くも翌十九日中に出署するよう原告の母に伝言を依頼し、さらに同日午前中再び原告方に電話したけれども再び留守だとの返事で原告はついに同日中に出頭しなかつたこと、同税務署長は同日が財産税法に定める更正の除斥期間の最終日に当るところから、同日本件更正の決裁をして右決定の通知書を作成し、翌二十日出頭した原告に対し右通知書を手交しようとしたが、原告が受領を拒んだので、翌二十一日これを郵便に付して発送したこと、当時同税務署内において前記財産税法の規定の解釈につき検討した結果、所定の期間内に税務署長の更正決定がなされていれば足りるとする説とその通知も期間内に相手方に到達することを要する説とがあつたが、同税務署長は前説を正当と解して期間の最終期日たる同月十九日に至るまで原告に自発的な申告をさせる努力を続けたのであるが、同日午前中ついに原告が出頭しなかつたので、同日中本件更正の決裁を了したことが認められる。それによれば、同税務署長において、期間経過後の違法なものあることを知りながら故意に右更正をなしたものでないことは、明白である。のみならず、税務署長が前記のような見解を採択したことが、一見明瞭な法律解釈上の誤りをおかしたものとも、にわかに断じ難い。当裁判所は右更正を違法な処分と判断するものであり、税務当局においても結局見解を改め本件更正決定を自発的に取り消すに至つたことは、前記の通りであるが、財産税法第四十六条第五項の「更正又は決定は、この法律施行後五年間に限り、これを行うことができる。」同第四十八条第一項の「更正又は決定したときは、これを納税義務者に通知する。」との字句の表現に即すれば、更正又は決定の通知が右五年内に相手方に到達することまでも法律は要求していない趣旨に読解できないでもなく、ことに通知まで右期間内に到達を要するとの解釈を採ると、納税義務者が課税庁から遠隔の地に居住し、又は住所が不明であつたり、故意に通知書の受領を拒む等のことから、たまたま通知が遅れることによつて不当に利得するような事例を生じ、課税公平の原則に反する結果を招くという実質的難点を免れないことになるわけで、税務署長とし叙上のような点を考慮した末前者の解釈を正当と信じて本件更正をしたことは、あながち無理からぬことであつたと考えられる。さらに前記財産税法の規定の解釈上参考に資すると思われる自作農特別創設措置法第四十七条の二の「処分のあつたこと」又は「処分の日」の意義につき、告知を要する処分にあつては告知により処分の効力が生じたこと又は生じた日と解する判例が比較的多数ではあつたにせよ、昭和二十八年九月三日最高裁判決(集七巻八五九頁)によつて右見解が支持せられるまでは、これと反対趣旨の判例(例えば、昭和二十三年九月三十日徳島地裁判決、傍論として昭和二十四年十月十八日最高裁判決)もあつたという公知の事実から推及するも、本件更正処分がなされた当時として、税務署長がさきに述べたように財産税法の解釈を誤つたとしても、その判断において過失あるものとは認めることができない。右更正を適法と判断したことに過失が認められない以上、収税官吏として右更正による財産税徴収のため未納者に対し国税滞納処分による差押をすることは当然の職務遂行であるから、本件差押処分にも過失があるとはいえない。原告が本件更正に対しこれを違法として茨木税務署に審査請求書を提出し(国税徴収法第三十一条ノ二による再調査の請求と認められる。)ついで差押処分の直後右更正の無効確認を求める行政訴訟を提起したことは、被告の争わないところであるが、さきに説示したように本件更正処分の適否の判断には相当微妙なものがあるから(成立に争ない甲第三号証及び第五号証の一の各記載に徴するも、原告が右再調査請求及び行政訴訟において更正を違法とする理由づけは必ずしも明確でなく、本訴においても、原告が違法の理由として主張する財産税法の前記解釈理論は、むしろ被告が答弁において述べた違法理由を最終弁論に至つてそのまま援用したものであること訴訟上明らかであつて、原告がいうように右法律解釈がしかく明白容易でない消息をうかがうに足りよう。)前記行政訴訟における裁判所の終局的判断が確定するまでは、仮に課税庁において本件行政処分を取り消すことなく維持したとしても、それに故意過失の責を帰することは、やはり不可と考える。

以上の次第で、原告がたとえ右違法処分によりその主張のような損害を受けたとしても、国はこれを賠償する義務はなく、被告国に対し右損害の賠償を求める本訴請求は、その余の判断をまつまでもなく失当であるからこれを棄却すべきものである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 橘喬)

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